文学・評論

『ブルーもしくはブルー』 著者:山本文緒 要約・感想

『ブルーもしくはブルー』 あらすじ

※主人公の蒼子を”蒼子A”
もう1人の蒼子を”蒼子B”とします。

蒼子Aは不倫相手の牧原と
サイパン旅行に行きました。

その帰りに機内トラブルが起き、
飛行機は福岡に着陸しました。

蒼子Aは福岡で、元彼・河見と結婚していた
自分にそっくりな蒼子Bに出会います。
蒼子Bは、蒼子Aが、
「今の夫・佐々木」と「元彼・河見」の
どちらと結婚すべきかを迷っていた時、
分離したもう1つの自分でした。

蒼子Aの提案により、
1ヵ月だけ蒼子Aと蒼子Bは
お互いの生活を入れ替えます。

最初はお互いのことを
”久しぶりに会った仲のいい双子みたいだ”
と感じていた2人ですが、
次第に2人はお互いを
憎み合うようになっていきます。

『ブルーもしくはブルー』 内容要約 前半

蒼子Aは不倫相手の牧原と
別れる前の最後の旅行のつもりで、
サイパン旅行に行きました。

私は丈夫が取り柄で、
頭痛ひとつ感じたことがない。
それに引き換え、
牧原は乗り物に酔いやすく、
すぐ疲労や頭痛を訴える。

最初はそんなところが情けなくて
可愛いものなどと思っていた。

ところが今では、それが一番かんに障る
恋の終わりとはそういうもの
などと思っていた。

p.9


台風の影響で飛行機は福岡に着陸しました。
蒼子Aは、博多には元彼・河見が
いることを思い出します。

今の夫・佐々木が、
代理店に勤める都会的で
スマートな人物なのに対し、
元彼・河見は、
やんちゃ坊主といった具合でした。

蒼子Aが博多で買い物をしていると、
偶然河見に会います。
自分に似た女性と歩いていました。

河見にバレないように、
蒼子Aは跡をつけました。

河見と女性はパチンコ屋の前で別れ、
蒼子Aが河見を追ってパチンコ屋に
入ろうとした。ちょうどそのとき、
河見と歩いていた女性に
声をかけられました。

蒼子Aは驚きました。
女性の顔が自分と同じ顔だったからです。
彼女は「今の夫・佐々木」と「元彼・河見」の
どちらと結婚すべきかを迷っていた時、
分離したもう1つの自分でした。
※以後、彼女を蒼子Bとします。

「今、いっしょにいるじゃない。
でも、ふたりとも見えてるみたいよ」

「だから、私達のことを同時に知れば
ふたりとも見えるのよ。
私のことを先に知っている人が見ると、
あなたは見えなくなっちゃうの」


つまり、蒼子Aが本物。
蒼子Bは蒼子Aのコピーということです。


蒼子Aは蒼子Bに
「1ヵ月だけ、お互い、入れ替わって
暮らしてみること」を提案します。
蒼子Bは面白そうだと思い、
蒼子Aの提案に賛同します。

4ヵ月の準備期間を経て、
2人は入れ替わります。

<蒼子Bの生活>
蒼子Aから佐々木は”冷たい男”だと
聞かされていましたが、
蒼子Bには”優しそうな男”に見えました。
蒼子Bは自由な生活をしていました。

お金は銀行の口座に驚くほど入っていた。
もうひとりの蒼子は、
買い物をする時は使ってと
クレジットカードまで貸してくれた。

蒼子はそのカードで片っ端から
好きな物を買った。
服や化粧品、何の役にも立たない
可愛かわいいだけの小物。

一円でも安い特売品を探していた
生活の反動か、後でまずいことになると
分かっていても買い物がやめられなかった。

p.125

<蒼子Aの生活>
蒼子Aは自分でも驚くほど、
河見との生活にすんなりと
入っていくことができました。

蒼子Aは、働くことの喜び、
休日の楽しさを実感しました。
彼女は、河見と結婚することが正しい
幸福の選択だったと思いました。

当たり前の日常の中で、
私は多くの発見をした。

まず、働くことの喜び。
私は今まで一度も、
働くことが楽しいなどと
思ったことはなかった。

〔中略〕

その成果を、河見はちゃんと褒めてくれた。
お前に働かせて本当に済まない、
パートに行って忙しいのに、
ちゃんと家のことをやってくれて
心から感謝していると、
河見は晩酌の度そう私に言ってくれた。

働く喜びはお金になって返ってくること
ばかりではないと、私はこの年になって
初めて気が付いたのだ。

p.137-138

ところがある日突然、
蒼子Aの河見の印象が
変わる事件が起きました。


ある晩、河見は何の連絡もなしに
深夜に酔って帰ってきました。
「遅くなるんなら、連絡ぐらいしてよ」
蒼子Aは河見に冗談めかして言いました。

そのとたん蒼子Aは河見に
思い切りほおを張られ、
流し台に嫌というほど背中をぶつけました。

河見は酔うと、
日ごろの鬱積が爆発し、
暴力を振るう男だったのです。

『ブルーもしくはブルー』 内容要約 後半

蒼子Aは、河見の暴力に逃げるようにして
東京に帰ります。

着替えをしようとクローゼットを開ける。
並んだ服から着るものを選ぼうとして、
私はおやと思った。

洋服が増えている。
それも、見たことのない服が沢山
クローゼットの中にあった。

〔中略〕

「冗談じゃないわよ……」
独り言が震えていた。
確かに私は買い物に使ってと
彼女にカードを貸した。

街を歩けば、服の二、三枚は
欲しくなるだろうと思ったからだ。
けれど、限度というものがあるじゃないか。
何も豪遊させようと思って
カードを渡したわけじゃない。

p.172-173


蒼子Bは佐々木に、
「子供ができたから離婚してほしい」
と牧原と一緒に頼んでいました。

蒼子Aは、蒼子Bの”豪遊”+”勝手な妊娠”に
怒髪天どはつてんきました。

蒼子Aは蒼子Bが妊娠したことで
蒼子Bのコピーになってしまい、

蒼子Aは、そのショックで意識を失います。

蒼子Bはチャンスだと思い、
蒼子Aの身分証と自分の身分証を入れ替えます。
それから、蒼子Aを雨が降っている公園に
置き去りにします。

「このまま彼女が死んでも構わない」と
蒼子Bは思っていました。

蒼子Aは目が覚めると病院にいました。
公園で倒れていたところを
救急車で運ばれたのです。

蒼子Bが、蒼子Aの身分証と
自分の身分証を入れ替えたので、
『河見蒼子』と病院のベッドの柵の
ネームプレートに書かれていました。

蒼子Aは河見に会うのが嫌で
病院を抜け出します。
しばらく家に帰らなかったことで
怒っているであろう河見に、
何をされるか考えただけで
恐ろしかったからです。

病院を抜け出す寸前のところで
河見に大声で呼び止められます。
蒼子Aは急いでタクシーに乗り込み、
河見から逃げます。

蒼子Aは蒼子Bに対して、
本物の殺意を抱きます。


蒼子Aは蒼子Bが泊まっている
ホテルに乗り込みます。
そこに、河見がやってきて修羅場になります。

蒼子Bは河見に突き飛ばされ、
その衝撃が原因で流産しました。

蒼子Aは、蒼子Bのことを殺したいほど
憎んでいたはずなのに、
流産したことにショックを受けました。

病院で2人は思いの丈を打ち明けあいます。

「私達、ちゃんと愛されてたのよ。
河見君にも牧原君にも。佐々木さんでさえ、
結婚した時はあなたのことが
好きだったのよ。

それをねじ曲げたのは私達なのよ。
愛されてたのに愛し返さなかったのよ、
私達」

p.254

こうして2人の入れ替わり生活は終わりました。

半年後、蒼子Bから手紙が届きました。

便箋一枚に書かれたその手紙を、
私は何度も何度も繰り返し読んだ。
手紙の最後に書かれた日付が、
私達が初めて会った日だと、
私は何回目かで気が付いた。

あの日がなかったら、
私はどうしていただろうと考えた。

少なくとも、ミシンを踏んだりは
していなかったなと、
私はひとりで苦笑いを浮かべた。

昼休みの終わりを告げるチャイムの音に、
私はやっと手紙を畳んだ。

p.264-265

『ブルーもしくはブルー』 感想

蒼子Aの人生、蒼子Bの人生、
どちらを選んでもブルー。
つまりは、”抑うつ”な人生が待っています。

蒼子Aは、自由とお金はあるけれども、
愛してくれる夫がいない。
蒼子Bは、愛してくれる夫はいるが、
夫の機嫌を損ねると暴力を振るわれる。


こんな風に山本文緒さんは
読者に考えて欲しいのだと思いますが、
私は蒼子Aの生活はブルーではないと思ってます。

蒼子Aは、東京のウォーターフロントの
良いマンションに住んでいます。
佐々木がハウスキーピングを
雇っているので、家事をしなくてもよいです。
私だったら、この生活は「最高!」と思います。

毎日趣味のフットサルをしたり、
月1で友達と旅行に行ってみたり、
丸1日かけて漫画の全巻を読んだりして、
充実した毎日を過ごすと思います。

蒼子Aが”抑うつな人生だ”と感じたのは、
自分に没頭できる趣味や気を許せる友人が
いなかったからであって、
佐々木のせいではないと思っています。

佐々木の不倫が許せないと思うのであれば、
蒼子Aは、佐々木に嫌味を言うのではなく、
きちんと話し合う機会を設けるべきで
あったのではないでしょうか。

反対に蒼子Bの生活は嫌です。
暴力を振るう男は最低です。
蒼子Bは愛されているのではなく、
河見に依存されているだけは気がします。

暴力を振るった後に優しくなるのも、
典型的なDV男の特徴です。

暴力後に優しくなるのは、
”自分が怒っていることを
相手に理解してもらえて嬉しい”からであって、
”自分が暴力を振るってしまい申し訳ない”
という気持ちでしているのではありません。

結婚している女性に尋ねます。
断然蒼子Aの生活の方が良いとは思いませんか?