文学・評論

【ツッコミながら読む『走れメロス』】『走れメロス』 著者:太宰治 要約・感想

『走れメロス』 主な登場人物

・メロス……主人公。真っ直ぐな性格。
王との約束を守るため、
友人セリヌンティウスを
殺させないために走る!。

・セリヌンティウス……メロスの友人。
石を削ったりする職人。

・ディオニス……人を信じれない人物。
疑わしい行動をとった人を、
身内でさえも虐殺する暴君。

『走れメロス』 内容要約 

『走れメロス』の内容を
わかりやすく解説します。

メロス、王様に捕まる

メロスは妹の結婚式の準備のために、
シラクスの市にやってきていました。

▲シラクス(現在:シラクサ)

【シラクス(現在:シラクサ)について】

シラクス(現在:シラクサ)は、
世界遺産に登録されています。
当時の面影を残す遺跡や
歴史的建造物に彩られた
その町並みは、
シチリアで最も美しい”と
言われています。

新鮮なシーフードを使った料理、
シチリアで最も古い神殿とされる
アポロ神殿は有名です。

シラクスの市は、
2年前のような活気がなくなっていました。

メロスは何があったのかを若者に質問しても
答えなかったので、老人の身体をゆさぶって
質問を重ねました。

メロスの強引さが表れています。
見知らぬ人から、突然身体をゆさぶられて、
老人はさぞかし驚いたことでしょう。

「王様は、人を殺します。」と
老人は答えました。

王様は”悪心を抱いている”と自分が感じたら、
身内、臣下関係なく殺す暴君でした。

メロスは怒り、
「呆れた王だ。生かして置けぬ。」と言い、
王様を殺すための短剣を持って城の正面から、
入っていきました。

言うまでもなく、見張りの兵隊につかまります。
メロスは単純な男なのです。

メロスは死刑になります。
王様を殺そうとしたのだから当然です。

メロスは、「自分が死ぬことに未練はないが、
妹の結婚式のために3日目の日没まで
死刑を猶予してほしい」と王様に頼みます。

もし、メロスが3日目の日没までに
現れなかった場合には、
代わりにメロスの友人・セリヌンティウスを
殺すことを条件に、ディオニス王は
メロスの願いを聞き入れました。

【セリヌンティウスがメロスの人質を引き受けた理由】

暴君ディオニスの面前で、
佳き友と佳き友は、
二年ぶりで相逢うた。
メロスは、友に一切の
事情を語った。

セリヌンティウスは
無言で首肯うなずき、
メロスをひしと抱きしめた。
友と友の間は、
それでよかった。

セリヌンティウスは、
メロスと2年ぶりに再会したと同時に、
メロスから、
「俺の代わりに人質になってくれ」
と言われます。

セリヌンティウスはこれを
無言で承諾します。

ここだけ見ると、
セリヌンティウスが、
友人思い過ぎて逆に心配になります。

実は、セリヌンティウスが
人質になることを了承した理由は、
メロスとセリヌンティウスが
同じ宗教の信徒だったから
だと言われています。

宗教の力は偉大ですね。

メロス、妹の結婚式を挙げる

メロスは一睡もせず、
妹の結婚式を挙げるために村へ帰ります。

その日の夜に花婿の家を訪れて、
「結婚式を明日行いたい」と頼みます。

花婿は「今日の明日で
結婚式をやると言われても、
何も準備をしていないから困る。
葡萄ぶどうの季節(9月)まで待ってくれ。」
と答えます。
※この時の季節は、
6~8月だと言われています。

普通の人ならここで折れますが、
流石、強引なメロスです。
花婿を何とか説得し、
明日結婚式を挙行させました。

メロス、濁流を泳ぎ切り、山賊にも打ち勝つ

メロスが目を覚ましたのは、
約束の日の明け方でした。

前日に、結婚式の宴会をしたので、
疲れて起きるのが遅くなったのです。

約束の時間までに到着できなければ
友人が死ぬので、「他の人に起こして
もらうように頼んでおけよ」
と思いました。

メロスは雨の中、走り続けました。
シラクスまで残り半分の道で、
雨で川が氾濫し、道がなくなっていました。

メロスはこんなことで諦めません。
メロスは川の対岸まで泳ぎ切ります。

すると今度は、
王様に雇われた山賊に襲われます。
メロスは3人を殴り倒し、
相手がひるむ隙に、
さっさと走って峠を下ります。

昼夜、強盗や野獣から羊を守ってきた
メロスは、体力があり喧嘩慣れ
していたのかもしれません。

「良い羊飼いは羊のために命を捨てる」と
ヨハネによる福音書10章11節に
書かれている通り、
羊飼いは、命がけの職業なのです。

メロス、疲労で動けなくなる

濁流を泳ぎきり、
山賊を3人打ち倒したメロスですが、
体力が限界を迎え、
ついには動けなくなってしまいました。

このときメロスは、
熱中症になっていたと考えられます。

「セリヌンティウスの元へ行けず申し訳ない」
という気持と、「このままセリヌンティウスを
見捨てて自分だけが助かる道も良いだろう」
という2つの気持ちが彼の中で生まれました。

「もうダメか……」と諦めかけたその時、
倒れた近くで泉を発見します。
メロスは泉の水を飲み復活します。

メロスは再び、走り出しました。

メロス、友人との約束を守る

メロスは口から血を噴き出し、
ほとんど裸の恰好かっこうになりながらも
走り続けました。

医学的には、
走り続けても吐血することはありません。

路行く人を押しのけ、跳ね飛ばし、
メロスは黒い風のように走った。

野原で酒宴の、その宴席のまっただ中を
駈け抜け、酒宴の人たちを仰天させ、
犬を蹴とばし、小川を飛び越え、
少しずつ沈んでいく太陽の、
十倍も早く走った。


メロスは日没直前で、
何とか刑場に到着しました。
メロスは間一髪のところで間に合ったのです。

メロスは、一度だけ友を
裏切りかけたことを打ち明けます。
セリヌンティウスもまた、
一度だけメロスを疑ったことを白状します。

2人はお互いの頬を一回ずつ殴り合い、
しっかりと抱き合います。

この光景を見て感動した、
暴君ディオニスはメロスを無罪にし、
「2人の仲間にしてほしい」と頼み込みました。

勇者は赤面しました。

メロスの顔が赤くなった理由は、
彼が裸であったとする説、
友人との約束を守れたことに
高揚感を感じたからなどの説があります。

『走れメロス』 感想

メロスが友人との約束は、
必ず守ると言っていました。
それなのに、疲労で動けなくなったときには、
「妹夫婦にかくまってもらいながら暮らそう」
などとよこしまな考えを持っていたというところが
「とても人間らしい」と思いました。

セリヌンティウスも、
「メロスはもしかしたら自分を見捨てて来ない
のではないか」と一度メロスを疑っています。

どんな綺麗ごとを並べたところで、
自分が一番可愛い。自分の利益になることを
優先したくなる。それが人間というものです。

ディオニス王にしても、
「最後には自分の非を認め、
メロスを許したから良い王様だ。」
と言い切れないと思っています。

ディオニス王は、
メロスが帰って来れないように、
山賊に襲わせています。

メロスでなければ山賊に襲われた時点で、
セリヌンティウスの元に
辿り着くことは困難であったでしょう。

このような細工をした上で、
「メロスは来なかった。
やはり人を信じることはできない」と
大衆に言い、セリヌンティウスを死刑に
しようと企んでいたのですから、
相当性格が悪いです。

私は小学生のとき、
「メロスは英雄だ。王様は心が広い」
という感想を持っていたのですが、
今読むと全く違った印象を受けました。

※『走れメロス』は太宰が結婚し、
幸せな時期に書いたものなので、
これでもかなり明るい内容になっています。
太宰が病んでいる時期であれば、
メロス、セリヌンティウスともに
ディオニス王に殺されていたことと思います。