人文・思想・宗教

【宗教について知ることのできる本】『星の子』今村夏子

『星の子』 登場人物

林ちひろ
中学三年生。子供の頃身体が弱かった。
ちひろの身体にできた湿疹が、
カルト宗教の水で治ったことから
両親がカルト宗教にはまり込む。

林まさみ
ちひろの5歳年上の姉。
ちひろが小学校5年生のときに
カルト宗教を信仰している
両親のことが嫌で家出する。

なべちゃん
ちひろの友人。
ちひろの両親がカルト宗教を
信仰していることを知っても、
ちひろを避けずにいてくれた。

落合さん(おちあいさん)
鼻が長くて紫色のめがねを
かけているおじさん。
ちひろの父親の同僚で、
ちひろの両親にカルト宗教を広めた人。

雄三おじさん(ゆうぞうおじさん)
ちひろの母親の兄弟。
ちひろの両親がカルト宗教を
信仰していることについて、
良く思っていない。

『星の子』 あらすじ

ちひろは子供の頃身体が弱かった。
生後半年を過ぎた頃、
ちひろにできた湿疹が全身に広がります。

両親はちひろの湿疹を
直す方法を模索していました。

そんな中、父親の同僚・落合に
勧められた『金星のめぐみ(水)』をちひろに
試してみると、たったの2カ月で
湿疹が完治します。

両親はこの奇跡を目撃してから、
『金星のめぐみ』 を販売している
カルト宗教に次第にのめり込むように
なっていきました。

それでも両親は変わらずちひろに
愛情を注いでくれていました。

ちひろが中学3年生のときに
新しく赴任してきた南先生に、
彼女は恋をします。

ちひろの両親が公園でお揃いの
緑色のジャージを着て、
頭に水をかけあっている姿を
南先生は見ます。

それがちひろの両親だと
知らなかった南先生は、
ちひろの前で両親を不審者扱いします。

自分が好きな人に両親を不審者扱いされ、
ちひろは動揺します。

この出来事から、
自分が信仰している宗教が他の人から
どのように見えていたのかを
考えるようになります。

宗教で家庭が崩壊する
テーマでありながら、
全く暗さを感じさせない作品です。

以下、詳しいあらすじです。

『星の子』 ちひろの両親がカルト宗教にはまる

ちひろの身体に出来た湿疹を治すために、
ちひろの両親は、専門医にすすめられた
薬を塗ったり、あらゆる民間療法を試します。
しかし、良くなることはありませんでした。

ちひろの父親の同僚が勧めてくれた
『金色のめぐみ』という水を1日2回。
ちひろの身体に使うと、
2カ月で湿疹が完治したと言えるぐらいに
ちひろの湿疹が良くなりました。

両親は『 金色のめぐみ 』を勧めてくれた
落合さんと親しくなり、落合さんの家に
頻繁に遊びに行くようになりました。

これを機に、『 金色のめぐみ 』 を
販売しているカルト宗教に、
ちひろの両親がはまっていきます。

『星の子』 「雄三おじさんお水入れかえ事件」

母の弟である雄三ゆうぞうおじさんは、
ちひろの両親がカルト宗教に、
騙されていると思っていました。

雄三おじさんは、ちひろの妹・まさみと
結託して、『 金色のめぐみ 』 の水の中身を
公園の水にすり替えました。

ちひろの両親の目を覚ますためにしたこと
だったのですが、貴重な水を捨てられたことで
ちひろの父親が激怒します。

共犯のまさみも、なぜか雄三おじさんを
責めたて、雄三おじさんは渋々帰宅します。

ちひろの両親がカルト宗教から
目を覚ますことはありませんでした。

『星の子』 なべちゃん

ちひろは小学校時代、
宗教が原因で友達ができませんでした。

ちひろが小学四年生のときに、
転校してきた女の子。
なべちゃんは、ちひろにも
分け隔てなく接してくれました。

ちひろが好きな西条くんと、
なべちゃんがこっそり手紙の
やり取りをしていることを
ちひろは知り、裏切られた気分になり、
ちひろはなべちゃんと話さなくなります。

仲直りのきっかけは、
『ターミネーターⅡ』に登場する
エドワード・ファーロングです。

エドワード・ファーロング と比較すると、
まわりの男子、女子、
先生までもが醜く見えました。

なべちゃんにそのことを打ち明けると、
声をたてて笑います。
それから2人は今まで通り、
会話するようになります。

『星の子』 春ちゃん 

同級生の春ちゃんは、
いつも窓際の一番はしの席で
背中を丸めて本を読んでいる
髪の短い女の子です。

集会で子供たちの人気者の昇子さんが、
その後、「春ちゃんは変わる」と
言った通りになりました。

集会で『幸福の黄色いハンカチ』を観た
春ちゃんは、泣いていました。

五年生のゆうたろうが、
春ちゃんの両手を力ずくで
顔からはがそうとします。

春ちゃんは「泣いてちゃ悪いか!」
と大きな超えを張り上げて、
皆を追いかけまわします。

ちひろははじめて春ちゃんの
笑った顔を見ました。

『星の子』  姉のまーちゃんの家出

ちひろが小学校五年生のときに、
姉のまーちゃんが家出をしました。

まーちゃんは両親が宗教に奉仕を
していたので、寂しかったのです。

落合さんや教会の人たちから
多くの助言が寄せられ、
そのたびに滝に打たれたり、
断食したりと、まーちゃんが無事に
帰ってくるために、ふたりとも
できることならなんでもしていました。

しかし、まーちゃんが
帰ってくることは、
ありませんでした。

『星の子』  ひろゆきにキスされそうになる

まーちゃんが行方をくらましてから
半年がたったある日、
落合さんの息子・ひろゆきから
電話がかかってきます。

ちひろは両親に内緒で
ひろゆきに会います。

ひろゆきはちひろのことを婚約者の
候補のなかの一人と考えていました。

帰り際にひろゆきにキスされそうになった
ちひろですが、間一髪のところで
キスされずに済みました。

家に帰ってから、
お風呂場のなかで、
なぜか涙が止まりませんでした。

『星の子』 南隼人先生

南隼人先生は、
ちひろが中学三年生になった
春に赴任してきました。

エドワード・ファーロングは、
南先生の西洋版みたいでした。

南先生の授業中、
ちひろは南先生の似顔絵を描いていました。
卒業式の日に先生の好きな
モンブランと一緒ににプレゼントする、
と考えていたからです。

似顔絵とモンブランを受け取った先生は、
「サンキュ」と照れくさそうに笑い、
わたしの頭をくしゃくしゃポンポン
してくれるのだと、ちひろは妄想していました。

『星の子』 南先生とのドライブ

なべちゃん、新村くん、
ちひろが卒業文集のチェックをしていると、
南先生は3人に帰るように促します。

新村が「危険な夜道を中学生だけで
歩かせる気か」とごねたので、
3人は、南先生の車で家まで送って
もらえることになりました。

南先生は、ちひろの家の近くの児童公園で、
頭の上に水をかけあっている”二匹”
不審者を目撃します。

南先生にダッシュで家に帰るように
言われたちひろですが、
不審者はちひろの親でした。

その夜、ちひろはひろゆきくんの
気持ちがはじめてほんの少しだけ
わかるような気がしました。

『星の子』 南先生の誤解

翌日、学校では南先生とちひろが、
ドライブデートをしていたと噂されていました。

南先生は生徒と2人でドライブを
していたと教頭に疑われることを
心配し、苛立っていました。

南先生に、昨日いた不審者が
実は自分の親であったことを話すと、
動揺して目と顔が赤くなりました。

ちひろも恥ずかしくなり熱を出し、
保健室の先生に起こされるまで
三時間近くも保健室で眠り続けました。

『星の子』  七回忌法要

ちひろは法要に行くことを
楽しみにしていました。
法要に行けば美味しいお弁当が
食べられるからです。

読経が終わり、お線香が終わり、
ありがたいお話しが終わり、
やっと待ちに待った
昼食の時間がやってきました。

ちひろはがっかりしました。
いつもの豪華弁当ではなかったからです。

法要にはいとこのしんちゃんも来ていました。
しんちゃん は雄三おじさんの息子です。

しんちゃんは、ちひろに「高校は自分の家から
通ってみてはどうか」と提案します。

カルト宗教を信仰しているちひろの
両親から、ちひろが距離を置いた
方が良いと思っていたからです。

しかし、ちひろは両親と距離を置きたく
なかったので、この提案を断ります。

『星の子』 南先生の似顔絵

担任の佐々木先生が
インフルエンザで欠席していた。

その代わりに南先生が
1週間ホームルームを
担当することになりました。

ホームルームの時間、
ちひろは南先生の似顔絵を
一生懸命に描いていました。

南先生は、皆の前でちひろが
自分の似顔絵を描く行為を
迷惑だと非難し、学校は宗教の勧誘を
する場所でもないと批判します。

こうしてちひろの南先生への恋は、
終わりました。

『星の子』 研修旅行

ちひろは両親とともに
研修旅行に行きました。

研修には春ちゃんも
彼氏を連れて来ていました。

研修の内容は毎年同じものでした。
まず『交流の時間』。
初対面の相手と一対一でおしゃべりをします。

その後、十五分昼食休憩時間をとり、
瞑想の時間です。

そして、午後八時からは
『宣誓の時間』です。
宣誓をする人をくじ引きで選びます。

春ちゃんの彼氏が当たりくじを引き、
「好きな人が信じるものを、
一緒に信じたいです。」と宣誓します。

会場から大きな拍手が起こり、
ひゅ~、ひゅ~、と
あちこちからひやかす声が上がります。

宣誓の時間も父と母に
会えなかったちひろは、
ずいぶん長いあいだ、両親の顔を
見ていない気がしました。

ロビーで両親を探すちひろでしたが、
両親は見つからず部屋で待っていると
母がにっこり笑って部屋に入ってきました。

母からロビーに来るように言われたので、
ちひろは髪の毛を乾かして
ロビーに向かいます。

そこには父もいて、
3人で流れ星を見に行きます。
ちひろには流れ星が見えるのに、
どういうわけか2人には見えません。

3人はその夜、
いつまでも星空を眺めつづけました。

『星の子』 感想

『星の子』は、宗教で家庭が崩壊する
テーマで書かれています。

頭の上に特別な儀式で
清められたという水を
かけ合って喜んでいる両親。

傍からみたら、
狂っているとしか思えません。

しかし、ちひろは南先生に
両親を不審者扱いされるまで、
これが異常だと気が付いていませんでした。

・引っ越しのたびに
家がどんどん小さくなる。

・両親は食事は一日に
一回だけしか撮らない。

・両親は緑色のジャージしか
服を持っていない。

このようは生活をしなければ
ならなくなった背景には、
カルト宗教を信仰するためにお金が必要で、
生活費を削る必要があったからです。

不思議なことは、
ここまで困窮した生活をしているのに
自分たちが信仰している宗教を
”悪だ”と思っていないことにあります。

それはおそらく、
カルト宗教が定期的に行うイベントが
楽しかったり、そこに来る仲間が
魅力的だったりするからでしょう。

ちひろは月に2回開催される教会で、
同じ宗教を信仰している
子どもたちに会えるのを、
楽しみにしていました。

仮に、私が子どもの頃に、
映画上映会だとか、夏祭りがあったら
宗教関係であっても参加していたと思います。

宗教になぜハマる人がいるのかを
知ることができました。

宗教にハマる友人がいたら
この本を読むように勧めてみることにします。