文学・評論

『かがみの孤城』著者:辻村 深月 要約・感想

【かがみの孤城】辻村 深月 あらすじ

ある出来事から、
学校での居場所をなくした”こころ”。

こころがいつものように自室に籠っていると、
部屋の鏡が光り出します。
鏡に手を伸ばすと、体が鏡の向こうへと
吸い込まれました。
目の前に現れたのは、城でした。
こころは、鏡の中で6人の男女、
狼の仮面をつけた少女と出会います。

こころと6人の男女は、
願い事が叶うという鍵を探します。

【かがみの孤城】辻村 深月 主な登場人物

城に集められた7人と、
こころたちを城に連れてきた
”オオカミさま”を中心にして物語が進んでいきます。

物語の中心となる7人を順番に紹介します。

こころ

中学1年生。
主人公。女の子。クラスの中心人物・真田美織に
目をつけられ、理不尽ないじめを受けている。
いじめを受けていることを両親に話すことが
できずに、一人で悩んでいる。

ウレシノ

中学1年生。
小太りな男の子。ちょっとしたことで、
女性を好きになっては告白する。
アキ、こころ、ハルカ、の順に告白する。
最後にはある人に告白をして、
返事がもらえる。

マサムネ

中学2年生。
眼鏡をかけている男の子。
ゲームが好きで、口が悪い。
よくスバルと一緒にゲームをしている。
本人が言うには、勉強はできるらしい。

リオン

中学1年生。
肌が日焼けをしている、
ジャージ姿のイケメン少年。
ハワイの学校にサッカー留学をしている。

幼い頃に、姉を病気で亡くす。
このことは物語の伏線となる。

スバル

中学3年生。
背が高い男の子。
紳士的で大人びたしゃべり方をする。
そばかすが多くあることから、
ハリーポッターのロンに似ているらしい。

フウカ

中学2年生。
物言いがはっきりしている女の子。
ピアノが上手。
メガネをかけていて、勉強ができそうな
感じはするが、勉強はできない。

アキ

中学3年生。
ポニーテールがトレードマークの女の子。
コミュニケーション能力は高いが、
トラブルメーカーとしての一面もある。

おおかみ様

城の案内人。
狼のお面をしてピンクのドレスを着た女の子。
物語の最後に正体が、
城を作った理由とともに明らかになる!?

【かがみの孤城】辻村 深月 見どころ

なぜこの7人が、城の中にある鍵を
見つけ出す冒険に選ばれたのかが
明確にならないまま、物語はスタートします。
物語が進んでいくにしたがって、
7人がなぜ選ばれたのかがわかります。

途中色んな場所に伏線があり、
最後で辻褄が合うようになっていました。
SF小説なのかと思いきや、
推理小説としての要素が多く占められていました。

【かがみの孤城】辻村 深月 内容要約

この話は、鏡が光りだし、
鏡の向こう側に城が出現した5月から、
城が閉じる3月までの期間の物語です。

5月から3月までに起こった出来事を
要約してまとめます。

【かがみの孤城】辻村 深月 5月

カーテンを閉めた窓の向こうから、
移動スーパーの車が来た音が聞こえます。

こころは朝起きるとお腹が痛くなり、
学校に行けないでいました。
お腹が痛くなる原因は、
クラスの中心人物・真田美織からいじめを受けた
ことが原因にあるのですが、
そのことを両親には言えませんでした。

こころの部屋には大きな姿鏡がありました。
あるとき、その鏡が光り出します。
手を伸ばすと、
鏡の向こうに引きずりこまれました。

目を覚ますと、
狼の顔の女の子が立っていました。
こころはびっくりして、
元の世界に急いで引き返し戻ります。

このとき、こころには
恐怖感と期待感がありました。

次の日、こころはもう一度
鏡の中に入る決心をしました。
中に入ると、既に6人の男女がいました。

この7人には共通点があります。
こころと同じで学校に行っていないのです。
(その後の描写で、リオンだけはハワイの学校に
通っていることがわかります。)

ジャージ姿のイケメンの男の子。
ポニーテールのしっかり者の女の子。
眼鏡をかけた、声優ごえの女の子。
ゲーム機をいじる、生意気そうな男の子。
ロンみたいなそばかすの、物静かな男の子。
小太りで気弱そうな、階段の手すりの陰に隠れた男の子。


このメンバーで城にある鍵を探します。
3月30日で城が閉じることになっていますが、
誰かが鍵を見つけた場合は、
その時点で城は閉じます。

絶対に守らなければならないルールがあります。
夕方5時までに、
鏡を通って家に帰ることです。

それを破ると狼に食われます。

鍵は1つしかないので、1人しか願いを叶える
ことはできません。7人の中で願いを叶えられる
人は現れるのでしょうか?

【かがみの孤城】辻村 深月 6月

7人が城に集まる時間はバラバラで、
こころは他の6人とあまり会話する
機会がありません。

こころが久しぶりに城に行くと、
マサムネとスバルが2人で
ゲームをしていました。
マサムネは、こころが学校に行っているので、
城に来ていないのだと思っていました。

こころは学校に行っていないことを
隠したくて、嘘をつこうとします。
その時、マサムネから
「学校に行ってる奴とは話が合いそうにない」と
思っていることを告げられ、
マサムネは、自分とは全く違った考え方を
持っていることに気が付きました。

マサムネは将来、
ゲーム制作の仕事に就きたいと思っています。
なので、学校の勉強は役に立たないと
思っているようです。

その翌日、城にはアキがいました。
こころはアキが「学校関係」のことを
話したくないことを知らず、
部活のことについて話してしまい、
アキの機嫌を損ねます。

この日、フウカもいるようでしたが、
自室に籠っているらしく、顔を出しません。


こころは昼ご飯を食べに一旦家に帰りました。
それからこころは、
皆でりんごを食べられたら良いと思い、
りんごと包丁を城に持ってきました。
マサムネ、スバル、ウレシノは、
こころが剥いてくれたりんごを食べます。

夕方になり、こころは少し城の中を見て回る
ことにしました。暖炉の内側を見ると、薄く「×」の
マークがついていました。

こころは偶然ついた傷かもしれないと思い、
気には留めませんでした。

こころがりんごを剥いている姿が
「家庭的」に見え、
ウレシノはこころに好意を寄せます。

ウレシノには直接伝えませんでしたが、
こころは恋愛至上主義の
ウレシノのことを内心嫌っていました。

【かがみの孤城】辻村 深月 7月

ウレシノのせいで、
城でのこころの居心地は、
ますます悪くなります。

どこにいてもウレシノが話しかけてくるので、
こころは息をつく暇がないからです。
こころは疲れて城を5日間休みます
6日ぶりに城に出ると、
今度はフウカがウレシノに好かれていました。

ウレシノは、城にいる3人の女性。
アキ、こころ、フウカの
ことを順番に好きになりました。
こころは呆れていました。

ウレシノのことがきっかけになり、
女子だけでお茶会をすることになりました。
そこで、こころは不登校の理由となった、
真田美織にされていたイジメを2人に話します。
この話を人にしたのは、今回が初めてでした。

美織とその友達がこころの家に来て、
ドアを叩きながら罵声を浴びせたことが、
こころにとっては、
「殺されるのではないか」と思うほど、
怖かったということです。

こころは話をしながら、涙が溢れます。
アキはこころを励ましてくれ、
フウカは黙ってハンカチを差し伸べてくれました。

【かがみの孤城】辻村 深月 8月

中学生は夏休みに入ります。
朝、ウレシノがフウカに花束をもってきました。
今日がフウカの誕生日だったからです。
どうやら、庭から取ってきたもののようで、
包装紙もくしゃくしゃで、
カッコいい花束ではなかったのですが、
それでもフウカは嬉しかったのです。

アキにカッコ悪い花束と言われ、
フウカはそっけない返事をしてしまい、
気まずい空気になります。

こころは2人の関係が悪くなったと心配しましたが、
そんなことはありませんでした。

こころは、午後にアキが
フウカにおしゃれなクリップを
プレゼントしているのを見て、
自分も何かプレゼントをしなければと思い、
次の日の朝、久々に外出します。

ショッピングモールまで行こうと思いましたが、
クラスの人に会うことが怖くなり、
近くのコンビニでチョコレート菓子を買います。
こころが好きなお菓子を、
フウカへのプレゼントに選びました。

フウカにプレゼントを渡すため、
夕方に城に向かうと、フウカはいませんでした。
夏期講習に行っていたからです。

翌週になると、おばあちゃんの家に
行っているとのことで、
アキもなかなか城に来なくなりました。

そんな中、こころと同じようにマサムネは
ずっと城に来続けていました。

こころが城から家に帰り夕食を食べていると、
母親から
「昼間どこに行っているのか?」
尋ねられます。

母親は仕事を抜け出してこころの様子を
時々見に来ていたので、
こころが外出していることを知っていました。
こころは自分のことを試しているような
母親の行動が嫌で、母親と喧嘩をします。

母親に監視されているかもしれないと思い、
次の日は城には行きませんでした。
その次の日に城に行くと、
スバルの髪の毛が脱色して茶髪になっていました。
兄とその彼女に染められたようです。

スバルとアキが話をしていると、
ウレシノが「あのさあ!」と大声を出します。
「2学期から学校に行くこと」を
皆に宣言するためです。

ウレシノは好きな人がころころ変わることで
皆に笑われていたことを気にしていたらしく、
赤面するぐらい怒っていました。

ウレシノが感情的になり、
皆が言いたくはないであろう
”なぜ学校に行けないのかについての理由”
を皆に聞くと、
リオンが、
「ハワイの学校にサッカーをするために通っている」
と答えます。

それを聞き、皆は驚きました。
ウレシノはリオンが自分と同じ境遇ではないことを
残念がり、部屋から静かに出ていきます。

その1週間後、今度はアキが髪を染めて現れました。

【かがみの孤城】辻村 深月 9月

夏休みが終わり、再び学校が始まります。
9月の中旬、ウレシノが再び城に戻ってきました。
顔に、ガーゼ。腕に包帯。傷だらけでした。

それから1日経ち、
ウレシノは怪我の理由を話し出します。
ウレシノは塾の友達に、
ジュースやマック代を出していました。
ウレシノはそれを「いじめ」だとは
認識していませんでした。

しかし、ウレシノの親にウレシノがしている
行動が知られ、相手の親にも伝わります。

親から友達は怒られたのですが、
あまり悪いと思っている様子はありませんでした。

「奢ってもらえないなら、お前にようはない」と
その中の1人から言われ、喧嘩になりました。
そのときにできた傷だそうです。
ウレシノは何もしたくない気分でしたが、
それでも城には来たかったのです。

この頃アキには23歳の彼氏がいるそうで、
頻繁に城へは来なくなっていました。

こころが城から戻ると、
「心の教室」の喜多嶋先生が訪ねてきました。

喜多嶋先生と話すと、
こころは、自分のことをわかって
もらえたような気がしました。
学校に行っておらず、
サボっているようにも見える自分のことを
「闘っている」と言ってもらえたからです。

こころは、自分が喜多嶋先生に妙に
親しみを覚えていることに気づきましたが、
その理由はわかりませんでした。

【かがみの孤城】辻村 深月 10月

10月になってすぐ、
アキから皆に話があるとのことで
皆が城に集まりました。

”願いの鍵探し”をどれくらい真剣に
やっているのかを皆に確認したかったのです。

皆、鍵のことは口には出さないでいましたが、
こころを除いて、
一生懸命探していたようです。

残り期間が半年になっても、
なかなか鍵が見つからないので、
皆で鍵を探すことになりました。

皆で鍵を探すのはルールに違反していないのかを
確認するために、オオカミさまを呼びます。
ルールには違反していないが、
鍵を見つけたら
城で過ごした記憶が消えることを
今更ですが、告げられます。

「皆で過ごした記憶がなくなってでも、
願いを叶えたいと思う」アキと、
「皆と過ごした記憶がなくなるぐらいなら
願いを叶えたくないと思う」皆との間で、
確執が起きます。

アキはしばらく城には来ませんでした。

【かがみの孤城】辻村 深月 11月

アキが次に城に戻ってきたのは、
11月の初めでした。
「雪科第5中学校」の制服を着て、膝を抱いて、
うずくまっていました。
曾おばあちゃんの葬式があったそうです。

全員がアキの制服を見て驚きました。
自分が通っていた中学校の制服と同じだったからです。

皆が住んでいる場所を確認しあうと、
リオン以外は近所に
住んでいることがわかりました。

皆でもう少し色んなことを話したかったのですが、
夕方5時の時間が来たので、
逃げるように帰りました。

【かがみの孤城】辻村 深月 12月

街が、クリスマスに輝いていました。
フリースクールの多喜嶋先生が、
マサムネのところにも来たと聞きました。

こころは自分たちが
『外の世界でも繫がりを
持っているもの同士』なのだ
ということが意識され、
新鮮な嬉しさがありました。

クリスマスが近づいた夜に、
こころの担任の伊田先生が、
家に来たがっている
ことを母親に告げられます。

こころは、母親に真田美織が家に来て、
すごく怖い思いをしたことを伝えました。
話の途中で、お母さんの目に涙が浮かびます。
その涙を見たら、こころは動揺して、
ますます自分の涙が出なくなりました。

翌日の午前中に、伊田先生は家に来ました。
伊田先生に、
「真田は誤解されやすいところもある子
だが、真田もこころのことを心配している」と
予想外のことを言われます。

こころは「反省はしていないと思う」と、
伊田先生に反論すると、
先生は動揺した様子を見せました。

伊田先生が何かを言うのを母親が遮り、
帰るように促しました。

その後、久しぶりに母親と外出しました。
途中、母親はこころに学校を転校する選択肢も
あることを伝えられます。

こころは転校することを即決しませんでした。
『雪科第5中』には、
小学校からの友達もいましたし、
城に行ける資格が『雪科第5中の生徒』であること
に限定されていたら、困るからです。

城のクリスマスパーティーに、
リオンはケーキを持って現れました。

皆でお菓子とケーキを食べていると、
マサムネから「相談がある」と切り出されます。

マサムネの親は、
マサムネを他の学校に転校
させることを考えていました。

そんな親に転校を諦めさせるために、
1日だけ雪科第5中に登校し、
その後は適当な理由をつけ、
学校を休もうと考えていました。

3学期に1日だけでいいから、
皆で集まることを提案され、
皆はそれを引き受けます。

マサムネが他の地域に行ったら、
もう会えなくなるかもしれないと
思ったからです。

【かがみの孤城】辻村 深月 1月

海外にいるリオン以外が、
互いのクラスを教え合い、
始業式に皆で集まることになりました。

城で昨日、こころはマサムネに「また明日」と
言っていたので、今日が約束の日で
間違いないのですが、
始業式は昨日で終わっていました。

そのことをこころは変に思ったものの
マサムネとの約束を守るために学校に行きました。
登校すると、東条さんに会いましたが、
無視され、気持ちが沈みます。

下駄箱に美織からの手紙が入っていました。
世界が崩壊するような、
ガラスをひっかくような大きな音が、
すぐ耳の隣で鳴り響きます。
「池田仲太とは別れたので、
こころが仲太のことを好きなら応援したい
こころに謝りたいという内容」でした。

怒りに手紙を握りつぶし、
マサムネが、アキが、フウカが、ウレシノが
来ていると信じて、その足で保健室へと向かいます。

保健室には誰も来ておらず、
保健室の先生に、
マサムネ、アキ、フウカ、ウレシノという人は、
この学校に存在しないことを聞かされます。

こころは誰にも会うことができず、
絶望感を思い知ります。
保健室に喜多嶋先生が来たことで、
こころは安心し、緊張の糸が切れ気絶します。

こころが目を覚ましてから、
城の世界は、
『こころが作り出した妄想』なのではないか?
と考えだしますが、家に帰るといつも通り、
鏡が光っていました。

城に向かうとマサムネ以外の皆がいました。
皆も今日学校に行ったのですが、
誰にも会えませんでした。

こころはマサムネは皆が約束を破ったと思い、
怒って城に来ていないのかと焦りました。
結局、1月中マサムネはずっと
城には顔を出しませんでした。

【かがみの孤城】辻村 深月 2月

1月中ずっと来なかった
マサムネがやってきたのは、
2月に入ってすぐのことでした。

まさむねはあの日皆が学校に来たことは
わかっていました。
なぜ、現実世界で皆に会えないのかを
1月中ずっと一人で考えていたので、
城には来れなかったそうです。

まさむねは、皆がパラレルワールドにいるので
会えなかったという結論を出します。
しかし、オオカミさまに「全然違う」と否定され、
外で会えるには会える」と言われます。

皆で外の世界で会う方法を考えました。
願いの鍵”で、
皆を一緒の世界にしてもらうことが、
オオカミさまが「外で会えるには会える」と
言ったことにあたると皆思っていました。

しかし、なかなか鍵を見つけられず、
鍵探しをしよう、という空気は、
本格的に全員の中で薄くなっていました。

オオカミさまは、
「鍵探しのヒントだって最初からずっと
出している」らしいのですが、
皆はそのヒントが何なのかがわからずにいました。

【かがみの孤城】辻村 深月 3月

お別れの月が始まりました。
こころが通う春からの学校は、
希望すれば、留年することも可能でした。
けれど、周りから浮いてしまうので、
それだけは嫌でした。

玄関先でこころは伊田先生に会いました。
真田美織の手紙のことを、
喜多嶋先生から聞いているはずなので、
先生から謝られるのではないかと思いました。

しかし、先生は「美織からの手紙の返事をこころに
書いてみないか」と言いました。
こころはがっかりを通り越して、
生まれて初めて、
誰かに幻滅する感覚がありました。

玄関の向こうで、カタン、という音が、
ふいに聞こえました。

手紙の中には、たった一言。
『こころちゃんへ ごめんね。 萌より』と
書かれていました。

呼び名が、「安西さん」ではなく、
「こころちゃん」であったこと。
4月、仲良くなったばかりの頃に呼んで
くれた声が、耳によみがえりました。

次の日、城に行くと、
マサムネが「学校をかわる」と告げてきました。
編入試験を受け合格し、
私立の中学に通うことになったのです。

ウレシノは母親と一緒に海外に留学する
ことを検討中です。

アキとスバルは、中学3年生です。
アキはスバルも自分と同じで、
留年するのだと思っていました。

受験勉強をしている素振りを全く見せなかった
スバルですが、定時制の高校に
入学することが決まっていました。

アキは、隠れて家で勉強をしていたスバルに
抜け駆けをしたと責める訳でもなく、
「そうなんだ」と言ったきりでした。

お別れパーティーの前日の3月29日。
こころは2つの中学校の見学を終えていました。

明日のお別れパーティーのためのお菓子を
買いに、カレオに行きました。
その帰りに東条さんに会い、
こころは、東条さんの家に行きました。

こころは、東条さんが美織からイジメられて
いたので、3学期の最初に会ったとき、
こころに話しかけなかったのです。

東条さんがイジメられた原因は、
美織のことをバカにしているように見えるのが
偉そうに見えて、気に食わないからだそうです。

東条さんは、実際、目の前の恋愛のことしか
目に入っていない美織のことを、
バカにしていました。
いつもはバカにしていないと
言い訳をしていたのですが、
引っ越すことが決まってからは、
言い訳することをやめたそうです。

こころは東条さんの物言いが、
以前よりもすっきりしていて、
かっこよく見えました。

東条さんは、こころに「負けないでよ」と励まし、
こころも「負けたくないね」と、
そう、答えました。

家に帰ると、城へと続く鏡の真ん中に亀裂が走り、
その周辺のガラスが粉々に砕けていました。

鏡の向こうからリオンの声が聞こえます。
アキがルールを破ったので、
アキは食べられました。
いずれルールを破った連帯責任で、
皆も食べられてしまうそうです。

皆を助けるためには、願いの鍵を
これから1時間の内に、
見つけるしかありません。

ガラスが割れた音を聞き、
心配して東条さんが訪ねてきました。
東条さんの家には、絵本があるので、
何かのヒントになるかもしれないと思い
再び東条さんの家を訪れます。

こころは、『7ひきの子やぎ』を見て、
何かに気がついた様子を見せ、
急いで家に帰ります。

部屋の鏡がある場所に着き、
意を決して、鏡の中に手を入れます。
割れた鏡の下半分は、身を屈めればどうにか
くぐり抜けられる程度の
隙間しかありませんでした。

鏡の中をくぐりながら、鏡をくぐるのは
これで最後かもしれないと考えました。
鏡がら出ると、部屋が暗く荒れ果てていました。

こころは、マサムネが×印を見つけたと言っていた、
台所の戸棚の中に手を伸ばします。
×マークに触れると、
こころに皆の記憶が流れてきます。

マサムネの記憶

ホラマサくんは嘘つきです。
特技「オレの友達が、オレの知り合いが」の
じまんばなし。死ねば。

「オレ、やだったよ」
「お前はたいしたことない気持ちでついた嘘かも
しれないけど、オレにとっては、すごく、
裏切られたみたいな気持ちだった。
オレ、お前のこと、尊敬してたし、
いいなって思ってたのに」

ウレシノの記憶

待ちぼうけの、1月の記憶が真っ先に、
額の真ん中を打つ。

マサムネ、皆を待って、
立ち尽くすウレシノ。

「おい、あいつ」
「マジ、なんで来てんの、ウケるんですけど」
「なんか食ってるよ。笑える!」

陰口を言われていることが、
ウレシノにはわかっています。
こころの耳にも、今聞こえます。
だけど、ウレシノはおにぎりだけ見て、
むしゃむしゃ食べています。

スバルの記憶

頭にドライヤーの熱風を感じる。
見えるのは、お風呂場。
お風呂場の鏡の中に明るい色の髪をした
スバルが映っています。

オキシドールを使って、
スバルが髪を脱色しています。
兄ちゃんにやられたって言おう、と、
スバルが思っています。

「学校にも行かん、働きもしない。
お前らは親父に似てどうしようもない」
「ごめんごめん、じいちゃん」
「今は、高校くらい出とあないと苦労するぞ。
だいたい」

父と母も、スバルと兄のことは
「問題児」扱いで諦めています。
誰も僕のために必死になる人がいない
状態なんだなぁとスバルは思っています。

フウカの記憶

「お母さん、風歌ちゃんは天才です」
ピアノの先生が言います。

小学校のフウカの日々は、学校とピアノの
2層にくっきり分かれていました。
時間の過ごし方は、
だんだんと学校がピアノに押され、
フウカ自身もそれでいいと思っていました。
しかし、夏のコンクールで、フウカは圏外でした。

フウカは、親に内緒で、喜多嶋先生に会うために、
1人でフリースクールの「心の教室」を訪ねます。

「ピアノも、風化ちゃんにとって
大事なものだってことが、よくわかるよ。
だけど、ピアノで苦しい思いをしなくても
よくなるためにも、今は、勉強もやろうか」
「教えて、くれるんですか?」
「当たり前だよ。ここは、”スクール”だもん。
勉強も教えるよ」

リオンの記憶

リオンは、”オオカミさま”が、
『赤ずきん』の”オオカミさま”ではなくて、
『7ひきの子やぎ』の”オオカミさま”だってことに
気づいていました。

「とんとんとん、おかあさんだよ。
―嘘だ! 狼だ」
小学生ーだろうか。
女の子が絵本を広げています。
絵本を読んでいます。
リオンのお姉さんです。名前はーミオちゃん。

弟の方に手を伸ばした姉が、
うわごとのように言いいます。

「理音。-怖がらせちゃって、ごめんね。
だけど、楽しかった」
自分が死んでしまうその時まで人の心配なんて
どんだけ優しいんだよ、と思ったことを
覚えている。

「あなたの元気すぎる元気の、半分も
あの子にあればよかったのに」
どうしていいかわからなくなって、
「あ、うん」とつい答えた。

お母さんは「うん、って……」
と呆れたように言って、目を伏せた。

リオンの母親は、リオンのサッカーの才能が
伸ばせると思い、
リオンにハワイの寄宿舎の学校を勧めます。

「あなたの可能性が伸ばせると思って」
母が言います。

真面目な顔をして見つめられると、
ああーと思い知ります。
母は、リオンに遠くに行ってほしいのだ、と。

アキの記憶

おばあちゃんの遺影の前で、
アキは座っています。

小さい頃に別れたお父さんのことを、
アキのお母さんは、「勝手な人」とよく言います。
「あんたができなかったら結婚は
たぶんしなかったのに。
それで別れてりゃ世話ないないわ」
そう聞かされてきました。

「舞子、舞子、どこだ」
「おい、舞子!」
「いないよ!」
「まだ帰ってきてない。いないよ」
「ああ、晶子、いたのか」

前の時と一緒だーと気づいて、
アキが咄嗟に逃げ出そうとします。
アキの闇雲に振り上げた足が、
相手の股間を蹴り上げます。

ひるんだ隙に、居間に逃げ込み、
ほうきで襖を押さえます。

母の小さな手鏡が光ります。
小さな鏡なのに、アキの体は、
ふしぎとすんなり、その中を通りました。

アキはおばあちゃんが亡くなって、
どこにも帰るところがありませんでした。

最後の日を前に、決意していました。
自分のクローゼットの中に隠れて、
5時が過ぎるのを待ちます。

「アキちゃん!アキちゃん。どこ!?」
必死に捜すウレシノの声が聞こえます。
ごめんね。ウレシノ。
みんなもごめん。
私、一人じゃ生きられない。
巻き込むかもしれないけど、ごめん。

帰りたくない。

生きてなんて、いたくない。
生きられない。

雄たけびが聞こえる。
すごい光が城の中に広がる。

クローゼットの扉が開いていく。

狼の顔と、大きな口が、そこにー。

鍵のあった場所

『7匹の子ヤギ』で、食べられなかったヤギが
隠れていた場所が時計の中だったので、
こころは大時計の中を探しました。

すると、大時計の振り子の裏に隠すように、
鍵が、張りついていました。

こころは鍵穴に鍵を差し込みます。

アキをー。
「どうか!」
叫ぶ。
「どうか。アキを助けてください。
ーアキのルール違反を、
なかったことにしてください」

光が溢れる。

「アキ、生きて! アキ、大丈夫だよ!
大丈夫だよ、アキ! 私たちは助け合える!
会えるよ! 会える! 
だから生きなきゃダメ!
頑張って、大人になって! アキ、お願い。
私ー、未来にいるの。
アキの生きた、大人になった、
その先にいるの!」

アキの手を皆で引っ張りあげ、
アキを助けます。

「お見事だった」
優雅に手を打ち鳴らしながら、
大広間のー階段の前に、
”オオカミさま”が現れました。

【かがみの孤城】辻村 深月 閉場

スバルは、1985年。
アキは、1992年。
こころとリオンが、2006年。
マサムネが、2013年。
フウカが、2020年。
ウレシノが、?年。

それぞれが過ごしている時代が違っていました。

スバルは、マサムネが『このゲーム作ったの、
俺の友達』ってちゃんと言えるように、
”ゲームを作る人”を目指します。

ウレシノはフウカに告白をします。
返事はYESでしたが、実際に付き合ったのかは
わかっていません。

”オオカミさま”の正体は、
リオンの姉でした。
自分と同じ年になった弟に会うために、
姉がこの世界を作ったのです。

喜多嶋先生は、
大きくなったアキでした。
城での出来事は鮮明には
思いだせなかったのですが、
誰かに強く腕を引かれる記憶が残っていました。

今度は、自分がその子たちの腕を引く側に
なりたいと思い、『心の教室』の活動に
関わっていたのです。

まとめ

物語の最後の方で、
こころを除いた、
6人それぞれの不登校の理由が
明らかになります。

城、城以外での6人の過ごし方が、
こころの視点ではなく、
それぞれの視点で描かれていました。

その心理描写を読み、
初めて気がつけたことも多かったです。

・アキは、おばあちゃんが死に、
居場所がなくて悩んでいました。

・マサムネは、知り合いが今しているゲームを
作ったと嘘をついて皆から嫌われていました。

・リオンは、両親が自分と一緒にいたくないと
勘違いをし、ハワイの寮で暮らしていました。

私は、1通り読んでから、
もう1度この作品を読みました。

1回目では気にも留めなかった文章が、
2回目に読むときには、
鍵探しのヒントになっていることに
気がつきました。
それだけ、この話は作り込まれています。

あらすじを読んで気になった方は、
実際に手に取って読んでみてください。

したっけね~☆彡